テスト/『ナレノハテ』 脱家畜化するコンテンポラリーダンス
その日、私の目の前にあったのは、三個の異形の肉体だった。切り込みの入った皮革に手足を絡め捕られた男たちが、もがき、あがき、のたうちまわる。小さく跳ねたかと思いきや倒れ転げ、起き上がろうにも起き上がれず、無様に顫動する肉体 […]
その日、私の目の前にあったのは、三個の異形の肉体だった。切り込みの入った皮革に手足を絡め捕られた男たちが、もがき、あがき、のたうちまわる。小さく跳ねたかと思いきや倒れ転げ、起き上がろうにも起き上がれず、無様に顫動する肉体 […]
寝台に、ひとりの女性が身を起こしている。
上半身は裸。
臙脂色の天蓋の中、眩いばかりの肉の白さを鎮めるかのように、乱れた敷妙(シーツ)が背中と下半身を覆っている。
だが、その柔らかな慰撫を捨て去るためか、嫋(たお)やかに内に曲げた左手は、敷妙をつまんで肩から滑り落とそうとしている。
胸元には嵐の前の静けさが漂い、乳房は慄(おのの)き、固く引き締まっている。
逞しく発達した右腕は、その乳房と腹の前を交叉し、それに続く右手は、寝台に置かれた華奢な短剣の上に重ねられた。
切れ味を試したのか、短剣の刃先はあるかなきかの微かな朱(あけ)に濡れている。
柄頭の金珠と、薬指の金の指輪が響き合う。
2010年に公開された、トム・フォード初監督映画『シングルマン』を、あらためて観賞した。
何度観ても、ため息しか出ない。
始まりから終わりまで、爪先から頭まで、スクリーンの端から端まで、完璧にスタイリングされている。
近年様々な映画で注目を集めるコリン・ファースは、本作でヴェネチア国際映画祭・最優秀主演男優賞を受賞した。
個人的にも生涯ベスト10に入っている作品なのだが、評価を流し読みすると「ゲイ映画」だの「ストーリーがない」だのといった理由でけなされていることに目がついた。
アーカイブしておきたい作品でもあるので、これを機に『シングルマン』について少し書いてみたい。
トム・フォードの美学と、その真価も浮かび上がってくるだろう。
『東海道四谷怪談』は四代目・鶴屋南北が世に送り出した歌舞伎狂言の傑作である。
文政8年(1825年)、江戸中村座で初演を迎えると、大盛況を博した。 この狂言の成り立ちは、「お岩」の実録だとする『四谷雑談集』が原典だと考えられている。
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