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『東海道四谷怪談』 幽霊のグラマトロジー

『東海道四谷怪談』は四代目・鶴屋南北が世に送り出した歌舞伎狂言の傑作である。
文政8年(1825年)、江戸中村座で初演を迎えると、大盛況を博した。 この狂言の成り立ちは、「お岩」の実録だとする『四谷雑談集』が原典だと考えられている。
寛文の頃、四谷左門町に住んでいた田宮又左衛門という同心(足軽階級)の娘「お岩」が、婿である浪人・伊右衛門の心移りで離縁を突きつけられ、嫉妬のために狂い果て、その怨霊が伊右衛門に祟って仇(あだ)を成したという。
歌舞伎評論の大家・渥美清太郎によれば、実際のお岩夫婦は仲睦まじく生涯を添い遂げたと伝えられているため、実際に起きた事件や伝説が混交して怪談へと変化したのではないかと推測されている。
いずれにせよ、南北が作り上げた「お岩」は、わが国を代表する幽霊になったことには間違いない。
『番町皿屋敷』の「お菊」、『牡丹灯籠』の「お露」と並び、『東海道四谷怪談』の「お岩」は、“日本三大幽霊”と呼ばれるにいたった。
そんな『東海道四谷怪談』が、あの美しくも恐るべき幽霊が、現代の日本に蘇生した。
戯曲を書き下ろし、演出を手がけたのは、静岡県が擁立する「SPAC」所属の大岡淳氏。
新著『21世紀のマダム・エドワルダ』も刊行され、注目を集める劇作家・演出家にして舌鋒鋭い批評家である。(自分とは『ジョルジュ・バタイユ降霊際』の頃からの付き合いだ)
大岡版『東海道四谷怪談』は、静岡県「国際白隠フォーラム2015」の催し物の一環として特別上演された。
驚くべきことに、このフォーラムのプログラムすべてが無料である。
これほど上質なプログラムを無料上演できるところなど、天下広しといえども静岡県くらいのものだろう。
近年、静岡県の芸術に対する取り組みは凄まじく、芸術総監督の宮城聰氏演出『マハーバーラタ』がアヴィニョン演劇祭の公式プログラムに選出されたことは記憶に新しい。
県立の劇団を擁しているということだけでも素晴らしいことだが、近年の成功を見るに、静岡県は芸術を中心とした観光振興のロールモデルとなるのではないかと思っている。
余談はここまでとして、さっそく極上の舞台を覗いてみることにしよう。
そこから「幽霊のグラマトロジー(文字学)」も浮かび上がるはずだ。

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